IDEC 常務執行役員
藤田 俊弘氏
ファインバブル産業の歩み、そして具体的なIDECのファインバブル事業から、日本が牽引する取り組みについてまで、お話を伺いました。
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長年にわたってファインバブルについて研究を続けている、慶應義塾大学理工学部の寺坂宏一教授。化学工学分野からファインバブル研究に取り組んだきっかけ、産業界との連携による可能性、そしてファインバブルの未来についてお話を伺いました。
慶應義塾大学理工学部
寺坂 宏一教授
専門は化学工学(ファインバブル)。ファインバブル学会連合、ファインバブル産業会(FBIA)、化学工学会、日本混相流学会、日本ソノケミストリー学会、日本食品工学会、コロイドおよび界面化学部会、分離技術会に所属。
当時若い頃の私の専門は、液体中での泡の溶解とか挙動の解明、そして化学プラントの設計でした。当初は泡の大きさにこだわりは無かったのですが、ファインバブルで広島の牡蠣養殖を成功させた実績を持つ土木工学の教授に出会い、一緒にファインバブルの勉強や仕事をさせていただいたことから始まりました。
ファインバブルは土木工学や養殖分野にとどまらず、化学工学においても大きなインパクトのある研究に発展すると感じました。しかし当時はこの分野でファインバブルの研究に挑戦しようとした研究者はおらず、それならより挑戦し甲斐があると思いファインバブル発生器を組み込んだ実験装置を製作して研究を始めました。
最初に学生と一緒に取り組み始めたのが排水処理の研究です。
水の中に漂っている有害なものや汚れたものを泡に付着させて除去することを試みました。泡を小さくできるファインバブル技術を排水処理に応用してみると、高速に水の浄化ができることがわかってきました。泡をファインバブル化することで、今まで皆さんが知らなかった性質や性能が出てくることに気がついたわけです。すると、新しい実験をやればやるほどおもしろい結果が出てきました。学生も一緒になって頑張ってくれました。
排水処理の次に挑戦したのが食品加工でした。マヨネーズですね。「マヨネーズにファインバブルを入れれば口当たりがよくなるんじゃないか」という発想でメーカーさんと寺坂研究室とで共同研究しようということで始まりました。
マヨネーズは酸化すると腐敗や変色が起こるのですが、窒素で酸素を追い出してしまえば酸化を防ぎます。そこでマヨネーズのなかに窒素のファインバブルを約15%入れてみることにしました。窒素は空気の主成分なので安全で無害です。
すると、これまでに無かったような良い性質が生まれてきました。例えば、カロリー面。窒素は0カロリーなので、約15%の窒素が入ればカロリーが抑えられます。ほかにもトーストやピザ生地にファインバブル入りマヨネーズを乗せて焼くと、泡がもつ熱を通しにくい特性のため、マヨネーズの表面だけがこんがり香ばしく狐色に焼けて美味しくなるという、うれしい副作用も出ました。
他に挑戦していることとしては、電車などの車体の野外洗浄ですね。洗剤や薬品を使って洗うと、洗った廃液は地面に染み込んで、地下水に入り、最終的には環境汚染につながってしまいます。できれば安全・安心な水と空気ファインバブルで洗えたら、そこで働くひとびとの健康や環境にも優しいですよね。そこで、水と空気だけから成るファインバブルを使って、壁やガラスなど「固体面にくっついた異物を取り除く」ことを目的とした研究を行っています。
そして、ファインバブルの他分野への応用として注目しているのが、シャワーヘッドをはじめとする、美容の分野ですね。美容というのは、ものすごく接点が多いように思います。
『肌』については専門外になりますが、「皮フにくっついた異物を取り除く」という意味で見直すと、洗顔料やクレンジングは私たちの『洗浄』にとても近いと思います。
このように、広い意味で美容と化学工学の間には、意外と接点が多いのです。そこで美容をもう一回、化学工学研究者の視点で見直してみると、同じ技術、同じサイエンスが使えそうな場所が散見されるなと感じました。
例えば、美容のための皮フ洗浄技術はまだまだだけど、機械の部品洗浄ならもう実現しているファインバブル洗浄もあります。温浴で体を温めたいなら、生理学者なら血行に注目するけれど、エンジニアならヒーターに注目するでしょう。一堂に会して情報交換したらきっと面白いでしょう。美容業界の皆さんにとっては大発見や大発明でも、別の業界から見ると常識になっている技術かもしれません。情報交換は世界を一気に発展させる可能性がありますから、とても大事なチャンスになるんじゃないかなと思います。
ファインバブルの研究の魅力は、洗浄、排水処理、食品加工、美容そしてここで紹介しなかった多くの産業分野を横断して活用が進んでいることです。
産業界の方が私たちファインバブルに詳しい科学者の話や報告を聞いて、皆さんの産業分野に使えないかなって思っていただければ、新しいテクノロジーの「種」が生まれ、育ってさらにもっと発展していくに違いありません。
私たち科学者はあくまで狭い学術についてのみ詳しい専門家です。産業界の皆様からおおくのヒント、アドバイス、ご協力をいただいて、分野横断的に挑戦することで、業界の発展や拡大に貢献できればうれしいと考えています。
その際には、さきほども触れましたが、異分野の人たちが一斉に集まって情報交換する場所が必要になると思いました。そこで、ファインバブルに携わっている研究者の団体として「ファインバブル学会連合」が立ち上がりました。私たち研究者の役割は、多種多様にわたるファインバブルの作用のメカニズムを解明し、キーテクノロジーとして発展させることです。産業界と学術界がお互いに発展し、良いサイクルを回すための場所を作ることも、私の仕事だと思っています。
幅広い分野を、一人の研究者が網羅していることは、なかなかありません。研究のきっかけは、産業界の方からいただくことが多いです。また、まだ解明されていないことが数多くあるのが、ファインバブル研究の醍醐味です。泡の研究を大学生の頃から始めて30年近く経っていますが、誰も解いたことのない謎、未知を明らかにすることが、私の幸せです。
IDEC 常務執行役員
藤田 俊弘氏
ファインバブル産業の歩み、そして具体的なIDECのファインバブル事業から、日本が牽引する取り組みについてまで、お話を伺いました。
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